草 間 彌 生 版 画 展
―木村希八コレクションより―
私は死んでもなお且つもっと深くもっと広くとはばたき、今よりも一層、大きい力をたくわえて、宇宙の果てまでも、のびていきたい、そのことを考えると、夜はねむりがたく、私の生涯を今迄支えてきた命の限りの創造のエネルギーは深夜の私を目覚めさせる。
(草間彌生、2004年)
草間彌生の作品制作は、果てしない舞踏のようである。
草間はアンデルセンの『赤い靴』を履いた少女のように、自身では抑えきれぬ力に動かされて、寝食も忘れ描き続ける。少女時代から水玉や網目の強迫的な幻覚を体験し、それらを絵に描くことで精神の均衡を保とうとしてきた。自ら表現することで、自分を襲う極度の不安感を抑制しようとしたのである。
『赤い靴』と違うのは、草間は決して自らの「足」を切り落とさず、踊り続けたことにある。
彼女は、アーティストが心理療法を受けることに強い抵抗を抱き、創作意欲を削いでしまう治療を拒絶した。代わりに創作活動を「芸術=薬」と考え、自らの内から沸きあがる果てしない創造のエネルギーを作品制作に注ぎ込んできた。少女時代から始まった絵画制作は、単身での渡米、ニューヨークでの絵画制作、ファッションショーにパフォーマンス、更には文筆活動へと広がり、彼女はあらゆる表現の前衛を切り拓き、世界の注目と評価を一身に受けてきた。
衝動に突き動かされた精力的な制作は今も昔も変わらない。真摯に一途に生み出される作品は、逞しい生気が満ちており、いつも新しく、濁りのない純粋さをたたえている。無限の細かな水玉模様には原初的な力強いリズムがあり、観る者の体を内側から揺さぶり、草間が独り歩んできた原野で繰り広げられる踊りの輪に誘う。時に清楚に、時に大胆に、時には露悪的に、時には無我の境地で。
本展におきましては、1980年代から92種に及ぶ彼女の版画を手がけてきた、日本の版画界を代表する刷り師である木村希八氏のコレクションから、貴重な初期作品を含む版画の数々を出品いたします。本展会期中には、木村氏による草間版画に関する特別講演も予定しております(別紙参照)。
会場では、初期から現在までの版画作品を中心に、アクリル画など約20点を展示いたします。無限の連鎖を続ける草間彌生の創造世界を、この機会に是非ご高覧頂けますよう、ご案内申し上げます。
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