K様邸 ジャンセン他
Kさん(K様と呼ぶべきですが、ご本人がこれをとても嫌がりますので、今回に限りKさんと言わせていただきます)のお住まいは、浅草寺にほど近いとても素敵な2LDKのマンションです。ご本人は「広さもですが、絵を飾る壁が少ないのが、何よりもの悩みです。」と苦笑いされています。
玄関左手の小壁にユトリロのリトグラフ“モンマルトル”が掛けられ、訪問者を迎えてくれます。サクレクール寺院とムーラン・ドゥ・ラ・ギャレットが描かれた小粋な1枚です。玄関前から左右に伸びる廊下は、さながら画廊の展示場。左手には、一昨年サンカイビで絵画の修復についてご講演いただいた小林基輝先生のリトグラフが飾られています。これはやはり一昨年、新潟池田美術館で開かれた『ムリナーリニ・シン絵画展』に際し、小林先生が参考出展された作品で、Kさんお気に入りの一枚だそうです。
廊下右手正面には、ガントナーの油彩(15号)“秋の池”が、鍵の手に曲がった先には、加山又造のリトグラフ“メジロ(3羽の小鳥)”と、ジャンセンのリトグラフ“奉献(Francony社刊レゾネ№401)”が、いずれもひっそりと並び掛けられ、その奥のリビングに導いてくれます。これらは、時々掛け替えて雰囲気の変わるのを楽しんでいるそうです。
リビングの片隅に、ジャンセンの油彩画“王様の選択”と、リトグラフに水彩とパステルで彩色を施した“人形とポリシネル”が掛けられています。“王様の選択”は、作家がご自身のご家族のプレゼントにするために描いたもので、この作家にしては珍しい2号という小品ながら大作の雰囲気を湛えています。“人形とポリシネル”は1984年に制作したリトグラフを元にした作品ですが、元のリトにくらべ手彩色されている分豊かな味わいを湛えています。室内の別の壁にはムリナーリニ・シン(前インド大使夫人)の水彩画が華やかな彩を添えています。
居室1には、ジャンセンの初期のリトグラフ“傘の下の母子(F社刊レゾネ№65)”と織田広喜の油彩画“テラスの風景”が並べて掛けられていました。ただ、この2枚の肌合いがあまり気に入らないようで、近々織田をジャンセンのリトに掛けかえる積りだそうで、“レモン売り( F社刊レゾネ№4)”か“八百屋( F社刊レゾネ№228)”にしようかと考えているそうです。
居室2はKさんご本人の書斎兼寝室で、一面の壁には、ジャンセンの水彩画“野菜のある静物(1962年)”を中心に、ルオーの銅版画“見世物小屋の呼び込み”とピカソのリトグラフ“小さなポットの花束”が並べて掛けられていました。さらに別の小壁を篠田桃紅の抽象が“遥”が飾られていました。どれも野球で言えば4番バッター、とても個性の強い作品なのですが、それぞれ主張しあいながらも、喧嘩せずにうまく調和しているように思いました。
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― 随分いろいろな作家さんの絵を集めていますね、ほかにはどんな作家さんの絵をお持ちですか?
Kさん えぇ、いつの間にか有名、無名の作家さんの作品が増えてしまいました。 10数人の作家さんの作品を楽しんでいますが、サンカイビさん所縁の画家では、吉岡耕二先生、北川健次先生、F・ミアイユ先生でしょうか。
― コレクションの基準はどうお考えになっていますか?
Kさん とくにはないんです。 画廊などで、いろいろな絵を見ているうちに、たまにキラキラッて光って見えてくる作品があるんですね。 そうなると、もうほとんど衝動買いってことになります。 もともと絵画と古書(希少本)は気に入ったらすぐに買うべきだと思っていますから。 一晩考えて翌日行ったらもう売れていた、ということになりますと残念ですからね。 系統的にとか目的を持って収集するわけではありませんので、私は自分をこれまでこのコラムで紹介されてきた方々のようなコレクターだとは、考えてはいません。
― 1番好きな画家さんは?
Kさん それぞれに気に入って買い求めてきたのですから、どの作家さんも好きですが、その中で一人をあげるとすれば、ジャンセンですね。 とくに、40歳代から60歳代にかけての作品が好きで、たとえば、線の一本一本が強さとやさしさを持っていて全く無駄がありません。 背中だけで、その人の感情、生き様を表現できる画家さんはあまりいないのではないですか。 毎日見ていても飽きがきませんし、それどころか日々新たな発見があるんですよ。
― ご自慢の一品は?
Kさん 作品ではないのですが、ジャンセンのイラスト入りのサインが気に入っています。 装画本の1ページに描いていただいたものですが、本の内容ともマッチしていて、素晴らしいなと思っています。 これはもう二度と手にはいらないでしょうね。
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どうやら大分長居をしてしまったようです。そろそろお暇いたしましょう。