篠田桃紅回顧展 -想・語・遊-
開催期間:2022年11月23日~ 2022年11月28日開催場所:日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊
東洋的な伝統美と革新的な造形美を融合させ「墨象」という新しいジャンルを切り拓き107歳で他界した孤高の美術家、篠田桃紅氏。このたび10年ぶりに日本橋三越本店にて回顧展を開催いたします。余分なものを削ぎ落し、一瞬の心のかたちを優美な線と面で表現した抽象作品、アトリエに大切に残していた文字の作品、手彩色を施した版画作品まで一堂に展覧いたします。想像すること、語り合うこと、遊ぶこと、すなわち創造すること、桃紅氏が大切にしてきた「想・語・游」をテーマに描いた一本一本の線を心ゆくまでご高覧ください。
ごあいさつ
篠田桃紅という偉大な芸術家の生涯を語るには、まだ暫くの歳月が必要なのかもしれません。桃紅氏の死後、私は変わらず作品に囲まれて日々仕事をしていますが、今まで桃紅氏が紡いできた言葉の数々が作品を通じて反芻され、彼女の囁きとして視覚や聴覚、そして触覚からも刺激として伝達されます。
「私が死んでもアートが残る」そう語っていた桃紅氏の真意が今になり益々顕著になります。
「かたちなきものの形を見て、声なきものの声をきく」…作者なき現在、桃紅氏の解釈はこれで良いのだろうか、と苦悶し「そんな浅慮じゃダメですよ。」と言われているようにも感じます。
私意による作意を離れて、もののなかにある閃きと己が一つになることによって、主観を超えた次元での句が出てくると芭蕉も弟子に語ったように、形という既成概念を超えた「かたち」を見なさい、と教えられる日々です。
簡素な茶室に目線をやればシンプルに静寂閑雅な日本庭園。主人と客人の相互への言葉を超えたおもいやり、この侘び寂びの世界にこそ、形の見えないかたちを感じ取る日本文化の核心を成しています。感じとる力は三者三様でありベースも違って当然ですが、人は死ぬまで感性を磨くことができると桃紅氏はよく語っていました。
「閃き」とは、門に人と書き、新しい関係性を意味しています。門を閉ざさずに、門を開き、いろいろなものが入ってこられる状況を作る。門を通った瞬間に何を感じ取るか、それが「ひらめき」となるのか、単なる通過となるのか、それはその人それぞれの感性に委ねられます。しかしコロナ禍であろうとその関係性を築くのも「人」である、ということなのかもしれません。
想像すること、語り合うこと(作品と対話すること)、遊ぶこと(すなわち創造すること)、桃紅氏が大切にしていた「想・語・遊」をテーマに本画、書、版画を約40点展観いたしますので、どうぞご高覧賜りますようご案内申し上げます。
平田美智子