篠田桃紅作品展 あわいー間
開催期間:2020年06月10日~ 2020年06月23日開催場所:伊勢丹新宿店本館6階=アートギャラリー
あわい ― 間
人類が誕生して、20万年もの長い歴史のなかで、私たちは生きるためにひたすら合理性や利便性を追求してきました。しかし心を無視してそれを押し進めた結果、不安・怒り・悲しみといった、心がもたらす影に振り回され、過去や未来に縛られ、本来の心は行き場を失ったのかもしれません。
谷崎潤一郎は「陰翳礼讃」の中で、「美は物体にあるのではなく、物体と物体とが作り出す陰翳のあや(明暗)にある。」と述べています。また儒教の師、子思は「喜怒哀楽の未だ発せざる、これを中という。発して皆節に中る、これを和という。中和を致して、天地位し、万物育つ。」と述べています。すなわち喜怒哀楽のどの感情もない時、これが「中」であり、感情が湧きあがっても、節度を保っていればそれが「和」となります。
篠田桃紅の創り出す作品に、心が揺り動かされるのは、この陰翳のあや、即ち 「あわい―間」(中和)が生みだす「美」なのではないでしょうか。作者が媒介となり、遥かなる悠久の彼方から表現しがたい、しかし、そこには確かにあると感じられる、時空を超えた「あわい」が齎す独特の情景、情感がそこには あるのです。無心になり己と外界を結ぶことにより、対象と一体化した時に、人知を超えた、想像以上の「美」を表現することができるのです。それらが心の境界を超えた潜在意識の領域へと、目に見 えないかたちで存在しているからこそ、桃紅の描く「あわい-間 」が、私たちを虜にするのです。
ギャラリーサンカイビ
平田美智子
ナレーション