アートってなに?
「アートってなに?」などと、とんでもないお題目を掲げてみよう。
10数年前、アメリカに住んでいたころ、アフリカからの留学生が「私にはアートなんて必要ない。アフリカでは、毎日どこかで飢えて死んでいく人がいる。アートが人を救えるの?」という究極の疑問を投げつけてきた。私は返す言葉もなく、今だにはっきりとその回答を見出せないでいる。
6年前に画廊を始めて、今でも「これでいいのか?私はきちっと社会の中の役割を果たしているのか?」とふっと彼女の言葉を思いだしては、自分自身に問いかける。
しかし、最近少しわかってきたことは、人は感動したくて、心を揺さぶられたくって、何かと共鳴したくって、音楽や美術を求めているのではないか。感動や共鳴の先にはなにがあるのかわからない。もしかしたら、なにもないのかもしれない。
でも、アートに触発されたい。何かを感じていたい。という欲求から逃れられない。絵を見ているだけではない。絵の向こうから湧き起こる波動がほしいのだ。その波動は人それぞれに違う。また、その時々でも違う。その波動がぴたっとはまった時に、人は心が揺り動かされ、共鳴するのである。
お客様に絵を納品する際、その空間がこの絵を追い求めていたかのように、大概においてぴたっとはまるのである。いつも不思議でならないのだが、絵と人物とその空間から同じリズムが感じられる。絵を通して、その方の心が垣間見られる瞬間である。
自分を鈍化させることが、この世の中を生きやすくするために学んだ大人の知恵である。子供のころは些細なことでも、喜び、悲しみ、傷ついた記憶が誰にでもあるだろう。気持ちの悪い絵を見て泣いたり、叫んだり。。。。。私たちはどこかで、子供のころの純粋な内なる心をアートを介して呼び覚ましているのかもしれない。