セルフ・ポートレート
片山雅史作品展の会期中、たまたま2枚のセルフポートレートと遭遇することになった。一枚は片山氏によって制作されたドットによる集積からなるセルフポートレートである。近くでみると円の集積で、肖像画には見えないが、少し引いてみるとなんと人物像が浮かび上がってくる。片山氏の皮膜のシリーズや墨の線による螺旋のシリーズ同様、だまし絵のように、近くで凝視しても見えないものが、知覚でみるとみえてくる、「ものをみる」という行為の曖昧さを想起させる一枚である。
もう一枚は銀座三越の重鎮で、ギャラリーの生き字引き、塚本氏によって描かれたものである。背景には106歳になるアーティスト、篠田桃紅氏の作品が描かれており、「撮影禁止」マークの代わりに「杖の使用禁止」マークが描かれている、なんとも特徴を掴んだユーモラスなデザインである。
半世紀ほど生きていて、こんな名誉で嬉しいことはない。しかし、私が自己認知能力に乏しい人間なのか、はたまた世間一般に、「自分のことが一番わからない」と云われる所以なのか、皆に「似ている!平田さんにそっくりよ!」と言われてもピンとこない。考えてみると、鏡に写る自分が暫し他人に見えることがあることを思い出して、猫が鏡に写る自己を認識できず、猫パンチをする姿に似て、そこまで愚かな人間なのだろうか?と悲しくもなる。
とても素敵な肖像画を2枚も手に入れて、「私ってだれ?」という謎がより一層深まった、そんな出来事であった。