小倉百人一首を読む その1
君がため 春の野に出でて 若菜つむ
わが衣手に 雪は降りつつ
光孝天皇
あなたに差し上げようと思い、春まだ浅い野に出て、若菜を摘んできましたが、あいにく雪が降ってきたため、衣の袖がすっかり濡れてしまいました。
第58代光孝天皇は元慶3(884)年に、55歳という高齢で即位し、在位わずか3年で逝去されました。学問に優れ芸術文化を愛されたといわれています。この歌は親王時代の作かと考えられます。
ところで、「君」とは一体誰を指すのでしょうか。もともとは、人の上に立って支配する者、すなわち天皇や、自分の主人を指す呼び方でした。また、転じて、親しい仲間に敬意を表して言う言葉となり、自分と同格または少し上の者や妻、夫をも指すようになりました。さらに現在では、もっぱら自分より下位の者や年下の者に使われているようです。
では、この歌の「君」とは?親しい友人か近習の者を言うと見るのが妥当かもしれませんが、恋人や若妻、と考えると趣は随分変わってきます。七草粥にして、夕餉を共にしたのでしょうか。そう考えるとほほえましい情景が目にうかんできます。