映画『エレニの旅』
東日本大震災により多くの尊い命が失われたことに深く哀悼の意を表します。また被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
震災の影響で、3月後半は、舞台芸術は、のきなみ公演中止(あるいは延期)となりました。また、展覧会の中にも、横浜美術館のプーシキン美術館展、山梨県立美術館のモーリス・ドニ展など、これから中止になるものもいくつかあるようです。
人間は、戦争や自然災害など、一人一人の個人では、避けようのない大きなわざわいに巻き込まれることがあります。ギリシャの映画監督、テオ・アンゲロプーロス(1935~)は、自然や歴史の大きな波に翻弄され続ける人間の姿を、美しい映像叙事詩として描き出し続けています。(とても寡作ですけど…)
先週末は、名画座で彼の『エレニの旅』(2004年)を観ました。封切り時に次いで、観たのは2度目でしたが、今回もまた、人間の無力さ、を痛感させられ切ない気持ちでいっぱいになりました。
主人公のエレニは、ロシア革命の戦禍を避けるため、母国に帰らざるを得なかったギリシャ人出稼ぎ労働者のグループの一員です。しかし、彼女の親は、オデッサで戦闘に巻き込まれ亡くなります。まだ幼かった彼女は、グループの長であるスピロス一家に拾われます。1919年、幼いエレニは、スピロス家の一人子アレクシスの手を握りしめ、命からがら、ギリシャに帰国します。
この後、エレニと彼女を育んでくれたスピロス一家には、次々と過酷な運命が訪れます。彼ら難民が作った部落は、スピロスの葬式の翌日から始まった洪水で完全に水没して、滅びます(CGでなく、本当に村を水没させて撮影されました。)愛するエレナと息子のため、アメリカに出稼ぎに渡ったアレクシスは、アメリカ兵として徴兵に応じます。夫の留守の間、エレニは、反体制派との関係を疑われ投獄されます。夫とも、息子とも連絡が取れないまま、エレニは、ナチス撤退後もギリシャ国内の牢獄を点々とさせられます。
大戦末期、夫は、沖縄で戦死。エレニの双子の息子は、ナチスから解放されたギリシャで始まった内戦に敵同士として、参戦。息子たちは、政治犯として投獄された母エレニが、牢死したと勘違いしたまま、二人とも内戦で命を落とします。
エレニは、夫と二人の息子の死を、牢獄から開放された当日から僅か何日かの内に、次々と知らされていくのです。エレニの過酷な運命には言葉を失います。
しかし、エレニや私たちの悲しみをすべて洗い流すかのような、圧倒的に美しい映像。少なくとも単なる観客である私たちには、大きなカタルシスがもたらされます。☆☆☆
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