木村希八先生の版画工房を訪問
[/caption] 木村先生は篠田先生のリトグラフを1963年以来、今に至るまでずっと手がけていらっしゃいます。 木村先生の数多い仕事の中でも、篠田先生が最も多くのリトグラフを制作した作家だそうです。 リトグラフは、石版石または金属板の上に、リトクレヨンや解き墨などの油脂分が多い描画材で描画し、描画した部分の親油性と、描画していない部分の親水性(保水性)という、相反する性質部分を利用する版画技法です。 この版面にローラーで油性インクを盛ると、親水性の部分ではインクが弾かれ付着せず、親油性の部分のみにインクは盛られます。 このようにしてインクが盛られた版の上に紙を乗せて、プレス機で圧力をかけることで転写するのです。 [caption id="attachment_660" align="aligncenter" width="485" caption="アルミ板と亜鉛板の版を見せてくださる木村先生。"][/caption] リトグラフの版材には、従来石版石が使用されていましたが、入手の困難さや、重量、経済性、保管場所などの問題から、現在では亜鉛板やアルミ板などの金属性の版(金属版)がよく用いられるようになっています。 そのままでは石版石のように多孔質でないため、保水部分を作るために表面を研磨し、細かい砂目を立てて使います。 [caption id="attachment_661" align="aligncenter" width="355" caption="石灰石の版。かなりの厚みがあり、「石版画」の名前そのもの。"][/caption] 表面を研磨することで繰り返し使うことができます。 石灰石の産地は様々存在しますが、南ドイツのゾルンホーフェン産のものが純度が高く、最も良質とされています。 解き墨。これを使用して篠田先生の作品も作られます。 「原画がないのがリトグラフです」と木村先生はお話くださいました。 よく描けた絵を、コピーのように複製するのではない、最初から版画のための制作を行うのがリトグラフ。 タブローとはまったく別の表現で、作家は一から版画という技法に向き合い、版画という技法のための制作を行うのです。 静かに淡々とお話くださいましたが、長年の版画にかけてきた情熱が、言葉の端々にうかがわれ、心打たれました。 ご自身のすばらしいアート・コレクションも工房とご自宅のそこかしこに溢れていました。 今は著名な作家でも、最初期にはまだ資金が潤沢ではなく、刷り代は自作の作品で支払った方々もいたとか。 木村先生は今も、若手作家の作品を積極的に求め、支援していらっしゃいます。]]>