祈りーVirtue
30年程自宅に飾っている篠田桃紅の「 Virtue 」という作品があります。桃紅先生から何かのお祝いに頂いたものです。その間、過去5回ほど国内外を移動しましたが、私が肌身離さず持ち歩いて来た唯一無二の作品です。「Virtue」は徳,美徳,善行などを意味する単語ですが、さらにその語源にさかのぼれば、「そのものをそのものとしてあらしめてる本来的な力」とあります。「バーチャル」という単語はこのVirtueの形容詞であり、「限りなく現実に近い」という意味になります。
ラスコー洞窟の壁画は二万年以上前にクロマニョン人によって描かれた人類最古のアートです。壁画の全長は二百メートル程、洞窟の側面と天井面には、馬・山羊・羊・野牛・鹿・人間・幾何学模様が鮮明な色彩で描かれています。
洞窟の暗闇の中では壁画をはっきりと見ることはできません。恐らく洞窟は祭祀用の儀式が行われる空間として使われており、火を灯すことで壁画が浮かび上がる仕掛けになっているようです。神への祈りとして踊り歌う。原初のアートは祈りから派生したものであったのでしょう。現実世界から切り離された洞窟内、それはお能の世界のような、あの世とこの世を繋ぐもの、まさにバーチャルな世界観なのかもしれません。