私の好きな絵
ジョルジュ・ルオーという画家がいる。画壇や流派とは一線を画し、独自の道を追求した、正しく「画家」という言葉が相応しい職人気質のアーティストである。ルオーにはヴォラールという専属の画商がいた。ルオーは生前、すべての作品を彼に託すと契約を交わし、それが後に裁判沙汰となった。彼は一旦仕上がった作品に何年も加筆を加え、納得しない作品を世に出すことを拒む完全主義者だった。しかし、ヴォラールはルオーの言う未完成の作品も含め、その所有権は自分にあるとし、結果自分が生きている間に完成させることは不可能と判断した未完の作品群を、ルオーは300点以上火に焼べて焼却してしまった。
さて、ルオーの作品から「サーカス」のシリーズより「老いたる道化師」という作品がある。この作品は1930年270部限定で刷られた銅版画であり、私の画商人生で4度ほど扱ったことのある作品であるが、扱うたびに「また出会えた!」とおもうなぜかとても懐かしい、ノスタルジーにかられる作品である。このおじいさんの爛々と見据える眼力に、慈愛の眼差しとどんな事にも動じない強い意志を感じる。強いて言えば右目が阿弥陀如来で左目が不動明王といったところか。
しかしどの時代も画商というのは悪人の象徴として描かれ、若干肩身のせまい職業である。