篠田桃紅作品@増上寺
[/caption] 大きい、そして何よりも力強い。暗い地下ロビーの明かりを点けると(それでも十分に薄暗いのであるが)浮かび上がってきた壁の一面を埋め尽くす巨大な壁画。長さは実に30メートルにも及ぶ。一目見た瞬間、その力強さ、緊張感に圧倒されてしまった。とくに、中央部の重層的なフォルム。濃淡の墨色のほかにはわずかな色々が折り重なって発する強力なエネルギー、パワーは、左右に拡がる絵の隅々までいきわたり、全く揺るぎがない。今までに見てきた寺院の障屏画は山水、花鳥風月あるいは動物など具象的なテーマが多かったように思うが、むしろこのように大きなエネルギーをはらんだ抽象画こそ、精神性を重んじる寺院に相応しいのではないか、ふと、そんなふうに思えてきた。 [caption id="attachment_2723" align="aligncenter" width="300" caption="地下ホール前ロビーの壁画"][/caption] 3階は道場、寺僧の修行の場である。中央の畳敷きの道場をはさんで、両側が通路になっていて、 この通路との境にそれぞれ4枚の大きな襖が建てられている。この襖の両面に描かれている絵は、 最近の作品に近い画風で、十分な余白の中に鋭い線やその線の集積としての面を描き出している。年譜など資料を見ると、平成3年(1991)に襖絵を新たに制作しているようであり、あるいはそのときの作かとも思われる。余白が見る者に何かを語りかけてくる。 それにしても、静かだ。静かでそして強く心に迫ってくる。いや、突き刺さってくる。道場に出入りする際、僧の皆さんがどのような思いでこの襖絵をご覧になるのか、ちょっと聞いてみたい気がした。 [caption id="attachment_2729" align="aligncenter" width="300" caption="3階道場の襖絵"][/caption] わずか30~40分ほどの時間であったが、40年前、若き日の篠田の美に対する激しい情念を感じ、篠田の別の一面を味わったひと時であった。忙しい中、拝観を許可し、案内までしてくださった 増上寺の方々に、あらためて感謝の意を申し上げます。 (注:篠田作品は普段非公開です。) ]]>