若さの秘訣2
こうした巨匠たちの名前と業績を思い浮かべているうちに、ふと、いずれの画家も最晩年にいたるまでひたすら作品を描き続けたきたことに気がつきました。では、なぜ巨匠たちはこのように高齢にいたるまで、若者の心さえも取り込むことのできる斬新で意欲的な作品を残しえたのでしょうか?私の答えは“それは彼らが画家であるから”という一言に尽きます。もともと“画家”を生涯の職業として選択した彼らは、自分の感情、心情を画布に表現することに自らの存在価値(レゾンデートル)を見出した人たちです。それまでに自己が培ったあらゆる技術、その時点で考えうるあらゆる新しい技法を駆使して、いかに適切に、そして十分に自己を表現するかを追及することに心血を注ぐ、それが巨匠と呼ばれるまでに達した画家の持つ宿命なのではないでしょうか。この新しい表現を求める意欲を持ち続け、さまざまな工夫を凝らす、そのことが彼らの肉体的、また精神的な若さの秘密なのではないかと考えています。そして、この道には決して「満足」はありえません、満足してしまったらそこで画家生命は終わってしまうのですから。例えてみれば、終着駅のない列車に乗っているようなもので、眼が見え手が動く限りは走り続けなければならないのだと思います。生涯一画家!このことが、私の「画家は長寿」という印象につながっているのかもしれません。
画家が作品にこれだけの心血をそそぐのであれば、それを鑑賞する私たちにはどのような心構えが必要なのでしょうか。まず、絵画にこめられた画家の心情を読み取れる鋭い感性を持つことが絶対に必要だと思いますが、これは私のような凡人には一朝一夕にできるものではありません。とすれば、せめていろいろなことに興味をもち何でも見てやろうという好奇心と素晴らしいものには素直に感動できる柔軟な精神を持ち続けることが、とても大切なことのように思えてきます。これが鑑賞者としての私たちが最低限心がけたいことで、若さを保つ秘訣かもしれません。実際、サンカイビにお見えになる絵画愛好者の皆様には実年齢よりもずっと若々しく感じられる方が多いように見受けられます。きっと、皆さん柔軟な感性をお持ちなのでしょうね。
(駒)