到津伸子さん
到津伸子氏が1月31日永眠した。到津氏は東京芸術大学美術学部卒業後渡仏し、パリ・東京を拠点に絵画やエッセイを発表してきた。2003年のエッセイ『不眠の都市』では講談社エッセイ賞を受賞。 彼女の書くエッセイや絵画はまさしく同じ表現の一線場にあり、ベールとベールの間に潜む光のように、一種雲をも掴むような捉えどころがない、しかし心の奥にじわじわと浸透して、気がつくと世界が彼女の色に染まっている、なんとも不思議な魅力を持っている。非常に鋭い表現力と観察力で、目に見えない世界を独特の感性で表現している。
到津氏とは2000年にギャラリーをオープンした創業当初の出会いであった。個展の回数は3回と数は少なかったが、定期的に会って色々な話をした。到津氏は、当然会ったこともないが、卑弥呼の再来ではないかとおもうほど、いつも高貴なオーラを放っていた。「不眠の都市」を出版後、小説に取り組んで早十年、この十年は小説のための十年と言ってもいいぐらい、絵画制作をやめ、執筆活動に没頭していった。
なぜこんなにも執筆活動が彼女を虜にしたのだろうか?それは祖父の代から新聞記者で書くことを生業にしてきたご先祖様のDNAなのだろうか?
十年かけて完成させたとおもったら風のようにこの世から去っていった。なんと潔い人だろう。
到津さん、ありがとう。
あなたに会えてよかった。