フローランス・ミアイユインタビュー  P.2 2003・03
Q5  今、製作中の 「カルチェ物語」 についてお聞かせください。  アトリエ=孤独な作業と創作のよろこびの場

FM

  「ある8月の第一日曜日」のように個人的な経験に基づいたお話です。パリの私のアトリエがあるこの地区は再開発が進んでおり、工場跡地を更地にして新しいビルが次々に目まぐるしく建設されています。取り壊しと建設の真っ只中にあるこの場所を物語の地に選びたかったのです。シナリオは 「シエラザード」や 「片目乞食僧になった王子」 にも関わったマリー・デスプレッシン(Marie Desplechin) が担当します。「ある8月の第一日曜日」 と同様特に会話はないので、臨場感を出すために街の音を実際に拾っていく作業をし、ルポルタージュ風に構成していきたいと思います。日常的な生活空間に不思議な、奇妙な、そして意外な非日常というエッセンスを加えていきたいと考えています。技法的にも新たな試みをしたいと思っています。例えば、油絵の技法を使ったり、街の雑多な様子を表現するためにコンピューターを使って街の奥行きを出したいと思います。
Q6  日本のアニメーションについてどのようにお考えですか。例えば宮崎駿作品など。

FM

  私は宮崎作品がとっても好きです。映画の中で私たちが目にする空想上のさまざまな登場人物、ハリウッド・アニメのような善悪だけの軸で作品が創られていない、想像力をかきたてられるところが好きです。また、古い神話と現代のテーマをあわせているところも好きです。これは私の視点ですけれども、彼は日本のアニメ作家の中でも偉大な作家であり、ヨーロッパの多くの人が彼の作品と出会えることをとても嬉しく思っています。ずいぶん前から日本のアニメはヨーロッパの子供達に紹介されていて、フランスでも一般に親しまれています。他方で、「マンガ」
(4) については
陳腐な意見かもしれませんが、若干懐疑的です。
(4) 翻訳者注:この意味については来日時に確認いたします。
Q7  アニメーションの制作方法について教えて下さい。一般的なアニメーション映画とどの点が違うのでしょうか。

FM

  まず、厚紙に乾燥パステルで絵を描きます。そしてカメラで直接撮影します。次に動かしたい部分のみ前の紙に加筆します。そして撮影を繰り返していきます。一つのシーンに一枚の紙のみを使い、加筆を繰り返していきます。ですから映像は残りますが、紙には最後のシーンのみしか残されないのです。これは孤独な作業で、即効性を要求されます。毎回画像が私に話しかけて来て、不意打ちを食らいます。繰り返しの多い元来のアニメーション画法とは違って、とても楽しく仕事をしています。またこの技法によりフィルムの中で絵画的な存在感が感じられると思います。
Q8  影響をうけたアーティストがいたら教えて下さい。

FM

  第一に影響された画家は私の母です。ですから母を超えるという意味においてもアニメーションの世界に無意識に移行していったのかもしれません。また、ピカソのドキュメンタリーフィルム、「ミステリアス・ピカソー天才の秘密」 “Le mystere Picasso” は私にとって衝撃的な体験でした。ピカソがガラスの上に絵を描いて、加筆したり、また一部分を消して変形させたり。絵の仕上がりのみしか見ることのない作品の一連の変化をガラス上で映像に収めたフィルムです。また、マチス、ブラック、バルテュスにも影響されました。影響されているかどうかは別にして、好きな作家はジェームス・アンソール(James Ensor)です。ペルシャの細密画は色構成において非常に勉強になりました。またドラクロワや19世紀のオリエンタル作家にも影響されました。一方、映像作家では、アレクセエフ(Alexeieff)、マックラーレン(Mac Laren)、キャロリーン・リーフ(Caroline Leaf)、そして、私と同じ技法で制作しているユーリ・ノルシュティン(Youri Norstein) に影響されています。
Q9  今後取り組んでいきたい題材、将来の夢などお聞かせ下さい。 

FM
 
  「ある8月の第一日曜日」 に取り組んだ当時から 「三部作」 (Trilogy)というのが命題でした。例えば、田舎、街、そして海。「カルチェ物語」 の後は、「日常」 を取り上げた、海辺で過ごすヴァカンスをテーマにしたいと思っています。また、それぞれの文明の発祥の地に伝わる天地創造について作品を創りたいと思っています。歴史上の実話と物語を結合する取り組みは今後も続けたいと思っています。また、映像の世界だけ、絵の世界だけではなく、二つの取り組みを並行して続けていきたいと思います。
Q10  初来日にあたってメッセージをお願いします。

FM

  是非日本を訪問して、その文化に触れたいと思います。そしてその経験が将来の仕事に生かされることを願っています。

フローランス・ミアイユは2003年6月初来日予定。どうぞお楽しみに!